タイの芸能界における、芸能事務所と所属タレントの報酬配分をめぐる投稿が大きな注目を集めている。
タイで約64万人のフォロワーを持つインフルエンサー「Tong+」は、2026年8月3日、自身のXを更新。近年の芸能事務所について「取り分があまりにも高すぎる」と問題を提起した。Tong+は、バンコクを拠点に活動する認証済みアカウントの発信者。
投稿によると、タイ芸能界では、芸能事務所が報酬の70%、所属タレントが30%を受け取る契約が一般的に見られ、その事務所側の取り分にはマネジメント費用などが含まれている。
さらにTong+は、最近、BL・GL分野で活動する若手俳優から契約について相談を受けたと説明。事務所と俳優の配分が「50対50」や「80対20」になっている例に加え、なかには事務所が90%、俳優が10%という契約もあったと主張した。
Tong+は、このような契約について「さすがにやりすぎだ」と批判。俳優側も不満を抱えているものの、事務所を訴えたり公にしたりすれば、批判や炎上を受けるのではないかと恐れ、声を上げられないケースがあるいう。
また、一部の事務所では、ヘアメイク代やスタイリスト代などが俳優の出演料から差し引かれる場合もあり、俳優の実際の手取りがさらに少なくなる可能性があるとも指摘した。
そのうえでTong+は、タイ芸能界において、雇用やマネジメント契約に関する標準的な契約書や共通基準を整備する必要があると訴えている。これから芸能界を目指す若者に対しても、契約へ署名する前に内容を十分確認するよう呼びかけた。
投稿は日本時間8月4日夕方時点で、約66万回表示され、数千件規模のリポストや「いいね」が集まっている。俳優の待遇や契約の透明性に対する関心の高さがうかがえる。
ただし、今回の投稿では、問題とされる芸能事務所名や俳優名、実際の契約書などは公表されていない。「70対30」「80対20」「90対10」といった数字についても、現時点ではTong+本人の証言に基づくものであり、断定できない。
日本の場合
結論からいうと、日本には芸能事務所と所属俳優の報酬を「何対何にしなければならない」と定めた統一基準はない。
契約方式は芸能事務所や俳優の立場によって異なり、毎月一定額を受け取る固定給制、仕事ごとの収入に応じて支払われる歩合制、固定給と歩合を組み合わせた方式などがある。
そのため、「日本では事務所が何%、俳優が何%受け取るのが一般的」と、一つの数字で示すことは困難。タイで話題となった「事務所90%、俳優10%」についても、それが日本の芸能界における標準的な配分だと示す公的な資料は確認できない。
一方で、日本でも芸能人と所属事務所の契約をめぐって、報酬の決め方や契約内容の不透明さが問題視されてきた。
公正取引委員会は2024年、俳優、タレント、歌手などの実演家と芸能事務所、放送事業者、レコード会社との取引について実態調査を実施した。その結果、芸能事務所が実演家より強い立場に立ち、相手が不利な条件を受け入れざるを得ない場合があると指摘している。
問題になり得る行為として挙げられているのは、報酬額を事務所側だけで決定することや、契約を書面で交わさないこと、契約内容を十分に説明しないことなどだ。
また、事務所が一方的に低い報酬を決める行為については、契約関係や当事者の立場によって、独占禁止法やフリーランス法上の「買いたたき」に当たる可能性がある。
2025年9月には、公正取引委員会が「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」を公表した。
指針では、芸能事務所などが取るべき対応として17項目を提示。契約期間や専属義務を明確にすること、実演家に契約内容を十分説明すること、報酬について協議すること、移籍や独立を不当に妨げないことなどを求めている。
さらに、俳優などがフリーランス法上の対象に該当する場合、仕事を発注する事業者には、報酬額や支払期日などの取引条件を明示する義務がある。
取り分の数字だけでは判断できない
芸能契約を考える際には、単純な報酬配分だけでなく、事務所が何を負担しているのかも確認する必要がある。
例えば、営業活動、スケジュール管理、広報、レッスン、衣装、ヘアメイク、移動費、住居などを事務所が負担している場合、取り分が高くなる理由として説明されることがある。
しかし、その費用の内容が本人に説明されていない場合や、実際にかかった金額を超えて差し引かれている場合、俳優側は自分の報酬が適切なのか判断できない。
重要なのは「何対何か」だけではなく、次の内容が契約書に明記されているかどうかだ。
・出演料や広告収入の総額
・事務所手数料の割合や計算方法
・レッスン代や衣装代などの費用負担
・報酬の支払日
・契約期間と更新条件
・退所や移籍の条件
公正取引委員会は、若い実演家について、契約内容を十分理解しないまま契約する可能性があるとして、特別な配慮が必要だとしている。
消費者庁も、芸能事務所やタレント養成に関する契約について、活動内容、サポート体制、レッスン代などの費用の内訳を確認し、その場で安易に契約しないよう注意を呼びかけている。
タイと日本では芸能界の仕組みや法制度が異なるため、単純な比較はできない。
それでも、若手俳優が立場の弱さから不利な条件を受け入れ、声を上げにくいという問題は共通している。今回タイで広がった議論は、日本の芸能界にとっても、契約書の明確化や報酬の透明性を改めて考えるきっかけになりそうだ。
今回の投稿は、特定の事務所を告発するものというより、若手俳優が不利な条件のまま契約を結ばないための制度整備と、芸能契約の透明化を求める問題提起といえる。
